世界は楽しみに満ちている。

ヨーロッパ在住の会社員の雑記帳です。ジャンル問わず好きなこと書いてます。

『西洋美術史入門』を読んだ感想

最近、旅行にもっと深みを持たせたいと思い、西洋美術史をかじり始めています。

だいたい月1くらいのペースで旅行をしている自分ですが、大きな観光地に行くとほとんどの場合美術館があります。有名なところはとりあえず行ってみるのですが、いつも絵を見ても、「ふーん、きれいな絵。」とか、「あー、世界史の授業でならった有名な絵。」とか、そういった表面的な感想しか持てないんですよね。で、これでは旅行の楽しみ、というこヨーロッパに住んでいる楽しみが半減してしまうという恐れから今更ながらちょっとずつ勉強をしていっているのです。

西洋美術史といえばこの1冊、ということで多くの方が推薦しているのを見て購入してみました。

西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)

西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)

 

 

「美術史」という切り口

この本は単純に絵画を説明するのではなく、「美術史」、つまり「歴史」と「絵画」をひも付けながらそれぞれの絵画の時代背景を解説していくという切り口です。高校のときに世界史、大学のときにも美術史の授業をとっていたにも関わらず全く覚えてないのですが、それぞれの絵からそのときの時代背景を読み取ることが出来る、ということにはっとさせられました。

高利貸しで外国へと赴く子息の安全を祈って「トビト書」に倣った「トビアスと天使」の絵画が流行ったとか、権力を持つのが教会から貴族、商人に移行していくのにつれて宗教的要素を含んだ絵ばかりだったのが日常的な絵が増えていったりだとか、歴史と絵画を照らし合わせながら見ていくのって凄く面白い作業だなーと思いました。

個人的に好きなのは印象派以降

とはいえ自分はまだまだそういった「美術史」的な見方はうまく出来ず、どうしても絵の持つ雰囲気に目がいってしまうのですが、やはりいいなーと感じるのは印象派以降の絵画でしょうか。この本にも「日本で人気の印象派」といった記載があって、やっぱり自分も日本人なんだなー…と改めて思ったりもしましたが、モネの絵は見ていて心が温たまります。第四章では技法についても解説があり、適当に印象を描いてると思ってたら実はそんな技巧が使われていたのかー!と感心しました。キャンバスから黒を取り除き、明度を下げないために混色を避ける。混色せずに原色を隣に置くことで、遠くから見ると望み通りの色になる…なるほどですね。

印象派もそうですが、個人的にフォーディズムキュビズムというジャンルも好きで、ピカソはもちろんマティスに興味がある今日この頃です。ダンスとか、赤い食卓とか、どこか狂気じみてて興味を惹かれます。あとムンクも好きなのですが、ムンクはどこに分類されるんですかね。この本では解説されていませんでしたが。

マティス『ダンス』

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マティス『赤い食卓』

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ムンク『Evening on Karl Johan Street』

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現代社会において「絵」の持つ意味とは

識字率の低かった昔は何かを説くのに絵画が重要な役割を持ちましたが、もちろん今は識字率どころか大学全入時代、中世の時代とは絵の持つ意味が大きく異なるというのはこの本でも述べられているポイントです。

ということは、誰もがネットなどに自由に投稿できる時代にあたっては、それまでの美術にはなかった問題に現代美術は直面していることになります。

ひとつは、誰もがネットなどに自由に投稿できる時代にあっては、芸術家の「プロ」と「アマ」の区別が失われていくという点です。(中略)

もうひとつは、識字率が低い時代において絵画が最大のメディアだったような、伝達手段としての必要性が失われつつあるという点です。美術は当初与えられていた存在理由をほとんど失い、純粋に趣味的な表現の場、自己表現のツールとなっているのです。

と述べられているように、現代にあたって絵画は趣味あるいは商用利用が主な目的になってきているのかなと。最近日本では○○展というイベントが良く開かれていますが、今まさに活動をしている芸術家たちの自己表現の場というのは、今どれくらいあるのでしょうか。自分の全然知らないフィールドなので、もしかしたらそれなりに用意されているのかもしれませんが、決して多くはないんじゃないかなーと想像しています。それこそウェブ媒体の方が多そうなイメージ。

ただ、日本のマンガや萌え絵も芸術や美術と呼んでいいのかは分かりませんが、昔とは性質が異なるサブカルチャーが草の根でたくさん広まっています。それらが何故広まるかというと、人々の心に驚きや感心を与えるからでしょう。

現代における「絵」ないし「美術」の持つ意味というのは、やはり「人の心を揺さぶる」ことだと自分は思います。画一的な暮らしを送る人たちの心、ちょっと疲れた現代人の心をがつんと揺れ動かし、別の世界へと引き込んでいく、何か。「絵」はそれを与えることが出来るツールです。

こんな時代だからこそ、「絵」の重要性は高まっているのではないでしょうか。心の豊かさを取り戻す、そんなことを至上命題にしてもいいかもしれませんね。

なんて素人の戯れ言です。