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イノベーションのジレンマー技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

■なぜ企業は行き詰まるのか

言わずと知れた名著、『イノベーションのジレンマ』。

1ヶ月くらいかけてじっくりと読みました。評判通り大変すばらしい本です。あまりに内容が示唆的でおもしろかったため、自分のビジネス書バイブル(*1)に追加することにしました。

最近ではコダックが顕著な例ですが、多くの優良企業がじわじわと市場を侵食する新興の破壊的技術にうまく対抗することが出来ず、どこまでも伸びていくかに見えた業績を停滞、あるいは急降下させてしまうことがしばしばあります。

本書はそのような現象が何故起こってしまうのか、その理由に様々な事例を検証し、明快なロジックを組み立てることで証明してみせようという本です。


■優良企業であるが故に、巨大企業は失敗する

大企業が失墜する理由と聞いてぱっと頭に思い浮かぶのは、慢心であったり、内部での政治争いや官僚主義であったり、マネジメント層の能力不足、後継者が育たないといった、いわゆる経営上の弱みです。しかし、そういった弱みがない極めて優良な企業でも、破壊的技術によって立場を追われてしまうケースも多くあります。なぜなら、優良な企業は顧客の声に真剣に耳を傾け、お手本のように優良な経営を目指してしまうからこそ、迫りくる新しい力によって失敗に追い込まれてしまうからです。

優良企業が破壊的技術にうまく対抗できない理由は主に2つ。

まず、企業は今あるバリューネットワーク、噛み砕いて言えば今まさに存在して利害関係にあるお客様や関連企業にとってのメリットを重視するためです。良い商品を出そうとお客様にヒアリングを重ね、関連企業と協力をしながら成長をしていくわけですが、主要顧客を重視するあまりそのネットワーク外にいる顧客に対してはどうしても目がいくことが少なくなります。新しく生まれた破壊的技術がそういったネットワーク外のお客様を捉え、そこで培った技術とノウハウをもって上位市場に新出してきたときに、初めて優良企業はその危機的状況に気づき、遅まきながら時流に乗ろうと粉骨砕身します。リソースを考えると、主要顧客を重視した商品開発を重ねるのは定石。しかし、そこに潮流に乗り遅れるという危険が潜んでいるというわけです。

そしてもう1つが、仮にうまく破壊的技術を自社内で生み出せたとしても、そういった技術は本当に投入しなければならないタイミングにおいては需要がとても小さく、大企業の成長需要を満たさないケースが多いということです。会社の成長を重視する優秀なマネージャーやセールスは、当然売り上げや粗利の増大を重視し、高採算商品を送り出して成長に必要な原資の獲得を狙います。このジレンマがまさに、小回りの効く新興企業にチャンスを与えてしまうのです。


■新しい時代に対応していくために

上記のようなジレンマの解決のために、本書では破壊的技術に取り組む際には既存の組織とは切り離したスピンアウト組織を設立するという案、そしてそれを作る際は主流事業から外れたものとしてではなく成功への重要な過程としてプロジェクトを捉えられる組織にしていく必要がある、と提言されています。

この本を読んで自分の中で何が革新的であったかと言いますと、現在仕事で関わっている新興国向けのマーケティング計画や来年度の事業計画を考える上での自分の思考回路が、まさにイノベーションのジレンマに陥った企業の考え方と類似しているものがあると気づいたことです。(自分の頭の中には決して優秀なブレインはありませんが。。)

利益が取れないローエンド商品よりも高粗利の取れるハイエンド商品を重視しようという戦略、粗利が少なくなるスーパーローエンドは踏み込むべきでないという判断、どれも間違ってはいないのですが、もし破壊的イノベーションの波が押し寄せたとき、あっけなく防波堤が崩れ去ってしまう可能性があります。本書にも「破壊的イノベーションのマネジメントとはマーケティングである」といった趣旨のことが書かれていますが、マーケティングに携わる以上、常に広範な視野で物事を考えていないといつか足下をすくわれると気づかされました。

今、日本のメーカーが新興戦力にその座を脅かされるようになっています。車しかり、薄型テレビしかり。これはイノベーションのジレンマに陥っているというよりは、商品がコモディティ化することでお客様の価値基準が品質から価格へと落ち着いてしまったことによる現象だと感じていますが、こういった閉塞感を打破するためには、既存のバリュー•ネットワークにとらわれているのではなく、色々なお客様に目を向けていくべきでしょう。

日本の優秀な大手企業は、新興企業による本当の破壊的技術が押し寄せてくる前に、今一度自社がイノベーションのジレンマに陥っていないか、あるいは将来的にそのような可能性が予測出来ないか、真剣に考察してみると良いでしょう。

以上。

*1 ビジネス書バイブル…漫画トリコのフルコースのように、とても感銘を受けて座右の銘ならぬ座右の書にしようと決めた本のことを勝手にこう読んでます。ちなみに今のところ自分のバイブルにはドラッカーの『プロフェッショナルの条件』があります。つまり本書が二冊目なのです!